ルドルフ・シュタイナーの講演録「黄道十二宮と七惑星の世界観」についてまとめてみたいと思います。この講演録は「星と人間」という書籍に収録されています。
「日本語で読めるルドルフ・シュタイナーの著作一覧」の記事はこちらです。
二十三の世界観
この講演においてシュタイナーは、二十三の世界観があり、一つの世界観だけが正しいのではない、惑星が精神十二宮を巡ることによって、あらゆる世界観が発生するのだということを説かれています。そして、人智学をはじめとする精神科学は「さまざまな世界観は、その相互関係から解明される」と認識しているので、さまざまな世界観を調停し、仲裁役を果たすことができると語っています。
どの世界観も、一面的なものにとどまると、人を真理に導けません。真理に到達するためには、さまざまな世界観を、自分のなかで経験しなければなりません。
二十三の世界観の一覧
二十三の世界観を下記します。
1、擬人論
2、有神論
3、直観主義
4、自然主義
5、グノーシス主義
6、論理主義
7、主意主義
8、経験論
9、神秘主義
10、先験論
11、オカルト主義
12、唯物論
13、感覚論
14、現象論
15、実在論
16、力本説
17、単子論
18、唯霊論
19、神霊主義
20、心魂論
21、観念論
22、合理主義
23、数理論
物質的な宇宙と精神的な宇宙
二十三の世界観は精神的な宇宙に配列されているものであると説かれています。そして物質的な宇宙はそれら精神的な宇宙の世界観に相当しているといいます。
物質的な宇宙とは、黄道十二宮・太陽系、太陽・月・地球、です。そして、精神的な宇宙とは、先にあげた二十三の世界観です。
(ちなみに黄道十二宮とは、牡羊座、牡牛座、双子座、蟹座、獅子座、乙女座、天秤座、蠍座、射手座、山羊座、水瓶座、魚座のことです。また、ここでいう太陽系とは、太陽、月、水星、金星、火星、木星、土星の七惑星のことです。)
それでは、次に物質的な宇宙がどの世界観に相当しているかを下記してみます。
1、擬人論(地球)
2、有神論(太陽)
3、直観主義(月)
4、自然主義(地球)
5、グノーシス主義(土星)
6、論理主義(木星)
7、主意主義(火星)
8、経験論(太陽)
9、神秘主義(金星)
10、先験論(水星)
11、オカルト主義(月)
12、唯物論(蟹座)
13、感覚論(獅子座)
14、現象論(乙女座)
15、実在論(天秤座)
16、力本説(蠍座)
17、単子論(射手座)
18、唯霊論(山羊座)
19、神霊主義(水瓶座)
20、心魂論(魚座)
21、観念論(牡羊座)
22、合理主義(牡牛座)
23、数理論(双子座)
宇宙空間における黄道十二宮の個々の宮は、精神の領域における、これらの世界観に相当します。黄道十二宮を巡る個々の惑星は、七つの世界観の気分に相当します。
黄道十二宮に相当する世界観について
それでは、黄道十二宮に相当する精神十二宮(12の世界観)について、まとめてみたいと思います。
ここでまず触れておきたいのは、十二宮に相当する世界観についてシュタイナーが「これらの世界観のニュアンス」という言葉を用いていることです。
一方、後述しますが、七惑星に相当する世界観のところでは「世界観の『ニュアンス』『イメージ』とは言わずに、ここでは『気分』と言いましょう」とシュタイナーは述べています。
それでは、上記の12〜23についてのシュタイナーの説明を抜粋します。
12、唯物論(蟹座)
精神への道を見出すことが不可能な世界観
13、感覚論(獅子座)
悟性・理性に由来すると思われるものを排除し、感覚の印象のみを認める世界観
14、現象論(乙女座)
この世界が本物だと言う権利はなく、世界が自分に現れ出ているということのみを知っているとする世界観
15、実在論(天秤座)
世界が物質か精神かは知らないが、自分の周囲の世界を認知する世界観
16、力本説(蠍座)
外的現実のなかに広がっているものは、いたるところで不可視の力に支配されているとする世界観
17、単子論(射手座)
みずからの内で実存を作ることのできるモナドがあるとする世界観で、個々の精神存在を具体的に表象できない、抽象的な唯霊論
18、唯霊論(山羊座)
あらゆる物質は、その基盤にある精神の開示にすぎず、物質は幻想であるとする世界観で、さまざまな位階の精神存在を表象する
19、神霊主義(水瓶座)
存在は活動的であるとする世界観で、世界のなかに精神を承認するが、精神が単数か複数かは不明瞭
20、心魂論(魚座)
理念は事物に結びついていると洞察し、世界のなかには心魂があるとする世界観
21、観念論(牡羊座)
理念・理想が世界プロセスのなかにある。理念に浸透された生活だけが意味をもつとする世界観
22、合理主義(牡牛座)
内面からではなく、外的な感覚的事物から読み取れる理念だけを通用させる世界観
23、数理論(双子座)
世界は機械であり、数学的形式で算定できるとする世界観
七惑星に相当する世界観について
次に七惑星(太陽・月・水星・金星・火星・木星・土星)に相当する七つの世界観についてまとめてみます。
ここで、まず確認しておく必要があるのは、七惑星が黄道十二宮をめぐるように、七つの世界観の「気分」も十二宮をめぐっていくことができるということです。
例えば、太陽は牡羊座、牡牛座、双子座、、、魚座と十二宮(星座)を巡っています。同じように、七惑星に相当するひとつの世界観は十二の世界観の中を巡ることができるというのです。
十二の世界観のニュアンスそれぞれにおいて、心魂の七つの気分が発揮されます。
それでは、前出の5〜11についてのシュタイナーの説明と補足を記していきます。
5、グノーシス主義(土星)
感覚によってではなく、心魂の認識力をとおして、世界の事物を知ろうとする人は、グノーシス主義者です。
グノーシス主義とは、1世紀にローマ辺境や地中海世界に興り、2〜4世紀に最盛期を迎えた宗教思想です。「グノーシス」とは元々は「認識」「知識」を意味する古代ギリシア語であり、グノーシス主義におけるグノーシスとは、人間を救済する霊智を意味しているそうです。
グノーシス主義は、物質と霊の二元論に特徴があり、感覚によって認識されるこの世(物質的世界)は悪であり、霊こそが真の存在であると考えているといいます。そして、自己の本質を認識することを通して、魂は卑しい肉体を去って真の神へと帰還することを説いているそうです。
シュタイナーが説かれている人智学におけるグノーシス主義とは、ある種の事物について具体的かつ内的に認識することで、その事物の本質を知ろうとすることではないかと思いました。
次に、いくつかの世界観におけるグノーシス主義の事例を抜粋します。
唯霊論の影響を受ける傾向をもつグノーシス主義者
その場合は、グノーシス主義を通して、精神世界との関連を深く照射できます。
グノーシス的な気分が唯霊論に用いられると、グノーシスは心魂の救済のために、最大の貢献をします。
観念論(理想主義)のグノーシス主義者
その人は、人類の理想と世界の理念を明瞭に見ようとする素質を持ちます。
理想について語るだけではなく、理想を心魂のまえに、絵のようにはっきりと描き出すことができます。この人は、観念論を具体的・内的に把握しています。手で事物をつかむように、徹底的に観念論を把握しています。
実在論の影響を受けたグノーシス主義者
彼らは事物の特質を繊細に感じ取ります。彼らはグノーシス主義者、実在論のグノーシス主義者です。
実在論のグノーシス主義者は、現実の事物と接触して、自分の人格をとおして意味豊かなことを語ることができます。
唯物論のグノーシス主義者
唯物論のグノーシス主義者は、物質への感覚・感情・感受しか有していません。犬は物質の匂いを嗅いで、その物質を詳しく知ります。そのように、物質に直接触れて、知ろうとする人がいます。そのような人は、物質に関して、秀でたグノーシス主義者です。
6、論理主義(木星)
論理主義の世界観の気分は、思考・概念・理念を、心魂のなかに現存させます。人体を見ると、目・鼻・口が関連しています。そのように、論理主義の心魂は、ある概念・思考から別の概念・思考へと到るかたちで、思考・理念を自分の内に有します。
ここでシュタイナーは、ヘーゲルとフィヒテを事例としてあげています。へーゲルは観念論における論理主義で、フィヒテは心魂論における論理主義であるといいます。
ヘーゲルは、自分が把握したあらゆる概念を、大きな概念有機体として秩序づけています。論理的な概念有機体です。
世界のなかに見出される思考すべてを、ヘーゲルは探し出して、受け入れました。ヘーゲルは、思考に思考を並べ、そこから一個の有機体を作ることができました。
7、主意主義(火星)
主意主義とは「意志」の世界観の気分だといいます。
ここではショーペンハウアー(ドイツの哲学者)とハマーリング(オーストリアの詩人)が事例としてあげられています。
ショーペンハウアーは独特の心魂の気分をとおして、意志すべてを把握します。彼にとって、自然の諸力は意志です。岩石の固さは意志です。現実すべてが意志です。このようなとらえ方は、彼の心魂の独特の気分に由来します。
だれかが主意主義であって、特に単子論の星座に傾倒しているとしてみましょう。その人は、ショーペンハウアーのように、意志という統一的な心魂を、世界の基盤にはしません。その人は、意志存在である単子を、世界の基盤にします。
この単子論的な主意主義の世界観がハマーリングにおいて形成されたものだといいます。
8、経験論(太陽)
経験論というのは、提供される経験を単純に受け入れる心魂の気分です。
グノーシス主義、論理主義、主意主義の気分は、現象の背後に何があるかどうか、じっくり考えるといいます。しかし、経験論は、熟考・熟慮にまったく適さない心魂の気分だといいます。
経験論は次のような気分だと言います。
事物が自分に向かってくるのを待ち、その事物が自分に何かを提供するのを待ちます。
「私が世界のなかで出会うもの、私に示されるもの、私に開示されるものを、私の世界観に組み込みたい」と、その心魂は簡単に言います。
9、神秘主義(金星)
神秘主義とは、経験でも、論理でも、意志でも、観照でもなく、帰依することによって世界の秘密や心魂の深みを内的に体験する、心魂の気分だといいます。
このような心魂は、世界について、人間が外的には体験できないものを、内的に体験します。そのような体験において、世界の秘密があらわになります。自分のまわりを見回しても、世界の秘密は見えません。
心魂が静まったときに、神が心魂のなかに輝くような、内的な探求が必要とされているのです。このような心魂の気分は、神秘主義と名付けられます。
10、先験論(水星)
神秘主義者は、事物の背後にあるものが心魂のなかに流れ込んでくると感じますが、先経論者はそれが自分のなかに流れ込んでくるとは感じず、それが外にある、と感じるといいます。
先験論者は、心魂が経験できるものの外に事物の本質がある、つまりは、事物の本質は超越的である、と考えるといいます。
すべての背後に、知覚によっては到達できないものがあると考えるのは、先験論者(超越論者)です。
先験論者は、「君が赤や青を見るとき、赤や青として見えるものは、事物の本質ではない。事物の本質は、その背後にある。君は目を手段として、背後にある事物の本質に突き進む」と、言います。
11、オカルト主義(月)
「この世界は幻影だ。外的な感覚的知覚や、通常の認識手段とは異なった方法で、事物の内面を探求しなければならない」と言うとき、私たちはオカルト主義者です。
「オカルト」とは「隠されたもの」を意味するラテン語が語源です。
オカルト主義は、本質は背後に隠れていて、私たちの知覚は、事物の本質に達しない、という立場です。オカルト主義者にとって、感覚で認識されるものは仮象、幻影であり、そこに事物の本質は表現されていないという立場に立っているといいます。
ここでは唯物論のオカルト主義者が事例として語られています。
現代の科学者は、原子について語るので、唯物論のオカルト主義者です。
原子は隠れています。彼らはオカルト主義者と言われるのを嫌がりますが、まったくオカルト主義者です。
太陽・月・地球に相当する世界観について
上述してきた世界観のそれぞれは、一定のトーンを持つことによって、さらに変化するとシュタイナーは説いています。
トーンは三つあり、世界観すべてが、この三つのトーンで現れるといいます。
2、有神論(太陽)
まず、太陽に相当するのが有神論です。
人間が外界に神を見出そうと探求するとき、有神論が発生します。
世界の現象を越え出て、「外を見ると、世界を満たす神が、あらゆるもののなかに開示している」と言う人、太陽光線に触れて元気を取り戻す人は有神論者です。
3、直観主義(月)
これは、有神論の対極にある心魂のトーンだといいます。直観主義は月に相当しています。
直観的に自分の内面を照らすものをとおして、世界観を探求するときに、直観主義が発生します。
自分が心魂のなかに有する最良のものを、直観によって見出す人がいます。そのような人は、月を歌い、銀色の優しい月光によって心魂を刺激される、直観的な詩人です。
4、自然主義(地球)
自然の経過から出て行かずに、個々の現象に立ち止まる人は、自然主義者です。
自分のまなざしを太陽に向けず、太陽が地上に生み出すもののみを見るのが自然主義者です。
この自然主義は、地球に相当しています。
1、擬人論(地球)
擬人論は「最も陳腐な世界観」として述べられています。
世界観すべてに関して、自分においてのみ経験できるものに依拠すると、それは擬人論です。
地球が太陽・月・その他の星々に囲まれていることを無視して、地球だけを考察することがあります。私たちは地球を、他の星々と切り離して考察できます。同様に、世界観に関しても、人間が自分のなかに見出せるものしか考慮しないと、擬人論が発生します。そのような意味で、擬人論は地球に相当します。
有神論、直観主義、自然主義のトーンのひとつに固執しないで、この三つを共鳴させると、真理に到達する、とシュタイナーは述べています。
そして、擬人論が、最も陳腐な世界観として、有神論・直観主義・自然主義の共鳴のなかに登場します。
世界の秘密を精神的に探求するために
ここまで二十三の世界観を概観してきました。
次に、これらの世界観と真理の探求に関して説かれている部分をまとめてみたいと思います。
一面性に陥ること、全体像を目指して努力すること
シュタイナーは二十三の世界観について説かれた後に「ひとつの世界観が正しいのではありません」と述べています。
どの世界観も、一面的なものにとどまると、人を真理に導けません。真理に到達するためには、さまざまな世界観を、自分のなかで経験しなければなりません。
複数の世界観が併存するのが可能であり、必要なことなのです。
一般的に考えても、ひとつの観点や事物の見方、考え方に固執してしまうことで、他の観点や見方、考え方を排除してしまうこと可能性もあると思います。
しかし、様々な世界観が同時に存在しており、それらの世界観が相互に関係し、また、互いに響き合っているということを理解することで、私たちは一面的にならずに、事物を全体的に認識し理解することができるようになるのではないかと思いました。
一面的になることについてシュタイナーは次のように述べています。
世間では、ただ一つの星座、ただ一つの気分に影響されて、一面的になる人が多いものです。
そして、特に、偉大な思想家が、しばしば、このような一面性に陥るといいます。
偉大な思想家の心魂は、七つの世界観の気分の一つを、精神十二宮の一つに位置させます。
上述してきた、ヘーゲルは観念論的な論理主義者、フィヒテは心魂論的な論理主義者、ショーペンハウアーは主意主義的な心魂論者、ハマーリングは主意主義的な単子論者といえると思います。
しかし、シュタイナーの説かれていることを考察すると、真理に到達するには、全体像を目指して努力する必要があるのだと思います。
人々が全体像を目指して努力することは稀です。真理を真面目に受け取るなら、この十二の世界観のニュアンスを、心魂のなかで実感できなければなりません。
世界観を自分のなかで体験する
世界の秘密を本当に精神的に探求したい人は、それぞれの世界観を自分のなかで体験しなければなりません。
それは例えば、十二宮に相当する世界観のひとつひとつのニュアンスを心魂のなかで実感することであり、また、その世界観のひとつひとつについて、「グノーシス主義者はどのように体験するか」「論理主義者はどのように体験するか」「主意主義者は、経験論者は、神秘主義者は、先験論者は、オカルト主義者はどのように体験するか」というように自分のなかで体験することだといいます。
そして、この七つの心魂の気分を修行的に体験することは特別よいことだとシュタイナーは説かれています。それを体験するための効果的な方法について、次のように述べています。
これらの心魂の気分をありありと思い浮かべ、それらの作用を感じ取りましょう。ついで、それらの気分を現象論の星座である乙女座に置いてみます。そすると、人間に開示されるものが、特別に壮大な形で現象します。
同じ方法で、ほかの星座に個々の世界観の気分を位置させても、最初はうまく行きません。
ですから、古代の密儀の学院の多くで、弟子たちは、あらゆる心魂の気分を乙女座に位置させました。そうすることによって、弟子たちは最も容易に、宇宙に突き進んだからです。
彼らは現象を、グノーシス的に、論理主義的に等々というふうに把握しました。彼らは、現象の背後に到ることができたのです。彼らは宇宙を粗雑に感じ取ったのではありません。
精神科学の課題
人智学をはじめとする精神科学において、これらの多様な世界観を調停するという課題をもっているといいます。
精神科学は、さまざまな世界観を調停するという課題を持っています。「さまざまな世界観は、その相互関係から解明される」と認識しているので、精神科学は仲裁役を果たせるのです。
講演録をまとめてみての個人的な感想
このシュタイナーの講演録を読んで、一面的なものに陥ることなく、さまざまな世界観を自分のなかで体験し、全体像を目指して努力すること、真実に到るためにはこのような試みと努力が必要になるのだと思いました。
そして、精神科学は、全体像を認識しているからこそ、それぞれの世界観を相互関係から解明することができ、どの世界観も否定し排除することなく、活かし輝かせることができるのではないかと思いました。
この講演録をとおして黄道十二宮と七惑星に相当する世界観への理解を深めることで、占星学(アストロロジー)を精神科学(霊学)の認識で照らして理解を深めることができるのではないかと思います。
参考書籍
この講演録は、ルドルフ・シュタイナー著「星と人間」という書籍に収録されています。